
「毎年、学術大会資料の編集と印刷に時間とコストがかかりすぎる…もっと効率的にできないだろうか?」
「次回大会のプログラムを組むときに、過去の発表内容を整理して参考にしたいのに、データがうまく活用できていない…」
学術大会の抄録集を紙媒体や学会独自のWebサイトだけで管理していませんか? 従来の方法では、長期保存や検索性に課題が残る場合も多いです。J-STAGEなら、資料の公開・共有が容易になり、研究の発展にも寄与します。この記事では、学術大会資料をJ-STAGEで公開する利点のほか、準備から活用までのステップも解説します。
※本文中の説明はすべて2025年2月現在の情報に基づきます。
1. 抄録集の登載先としてJ-STAGEを利用する3つのメリット
J-STAGEは、日本国内の学会誌や研究論文を発信できる学術プラットフォームです。まずは、学術大会の抄録集をJ-STAGEを活用するメリットを3点確認しておきましょう。

1-1. 学会資料の登録・公開による書誌情報整備と影響力拡大
J-STAGEに資料を登録・公開すると、DOI(=Digital Object Identifier、デジタルオブジェクト識別子)やISSN(=International Standard Serial Number、国際標準逐次刊行物番号)がひもづけられます。学会誌や論文と同じように、資料にも書誌情報が整備できるわけです。
さらに、J-STAGEではXML形式(=Extensible Markup Language、文書の意味づけをするマークアップ言語の一種)でのデータ登録を推奨しています。XMLでは論文や抄録の構造化情報を含むため、検索エンジンや外部の学術データベースとの連携が強化されます。
掲載した記事が一般的なWeb検索でもヒットしやすくなると、学会誌・論文の被引用や、研究者同士の連携のきっかけを創出することもあるでしょう。
1-2. 学会資料・電子文献の管理・共有効率の向上
登録したデータがすべてオンライン上で一元的に管理できるのも、学会運営者にとってのメリットの1つです。
長期的・永続的な電子アーカイブが可能になり、会員やジャーナルの投稿者が過去の発表を迅速かつ容易に参照できるので、研究の継続性にも寄与します。
1-3. オープンアクセスによる読者の増加とリーチの拡大
J-STAGEはオープンアクセス(以下OA)に対応しており、抄録や論文を全世界に広く公開できます。日本では2025年度から、公的資金を受けた研究論文の即時OA化が義務づけられました。
OA化すると購読料が不要なので、さまざまな読者の目に触れます。国内外の研究者のみならず、企業のエンジニアや政策立案者、メディア関係者など、広い層へリーチが拡大するため、学会の認知度向上も期待できるでしょう。
このように、J-STAGEは単に論文の発表の場であるだけでなく、効率的な学会運営にも役立ちます。
参考記事:【2025年版】学会誌のJ-STAGE掲載ガイド:公的資金研究の論文OA義務化に対応
2. J-STAGEでの抄録の閲覧、および大会抄録集の検索方法
J-STAGEの導入を検討しているのであれば、まずはユーザーとして、論文の抄録や記事がどのように見えるのか、検索・閲覧してみることをおすすめします。ここでは基本的な検索方法を2つ紹介しましょう。

2-1. J-STAGEで文献の抄録を確認する方法
J-STAGEで資料を検索すると、まずは「詳細検索結果」として論文や記事のタイトルリストが表示されます。
リスト内には「抄録」というテキストがあり、クリックすると、抄録の一部が表示されます。また文献のタイトルから遷移するページでは、本文の前にまず抄録が表示される仕様になっています。
ただしすべての記事に正確な抄録が付いているわけではありません。記事の1ページ目などをそのまま画像として表示している資料もあります。また、抄録の文字情報が抜けているような記事も存在します。
2-2. 抄録集など学術大会関連資料の検索・発見方法
大会関連資料を探すには、例えば、検索ボックスに「抄録集」と入力してみましょう。記事タイトルにこの文字列が含まれる資料だけを抽出できます。
さらに別の方法として、検索ボックスに学会名や任意のトピックのキーワードを入れ、検索フィルタ内の「資料種別」で「会議録・要旨集」にチェックを入れると、多様な学術大会資料を閲覧できます。
3.1. J-STAGEにおける学術大会資料の公開状況
それでは現状では、学術大会に関連する資料を、どのように公開・運用するパターンが多いのでしょうか。

3-1. 公開資料の種類と形式
J-STAGEに掲載される学術大会資料には、抄録集、予稿集、講演スライド、ポスター発表資料などがあります。
また、各セッション単位でファイルを分割したり、抄録集全体を1つのPDFにしたりと、学会ごとのニーズに応じた形式が選択されています。
3-2. 公開対象とアクセス権限
J-STAGEでは、学術大会資料の公開範囲を完全OAにするか、会員限定公開にするかを設定により選択できます。多くの学会では、最新資料の閲覧には購読者認証のプロセスを設けて、詳細な予稿や講演資料は学会員のみが閲覧できる形をとっています。この場合、認証を解除するタイミングも指定できます。
著作権や研究データの取り扱いに配慮し、期間限定で公開するケースもあります。公開日や公開範囲の制限のほか、発行機関側の方針にもとづいて、記事ごとの閲覧料も設定できます(「ペイ・パー・ビュー(PPV)」形式、別途申し込みが必要)。
3-3.学術大会資料のアーカイブ管理・再利用
J-STAGEに登録された学術大会資料は、学会が指定する期間にわたって保管され、大会終了後も継続的に閲覧できます。横断検索機能を使うと、関連分野の発表を効率的に探索できます。
発表した研究者にとっては、業績として自身のWebページやSNS投稿からリンクできるという利点もあります。分野全体でも過去の発表を引用しやすくなり、学会活動全体が活性化されるでしょう。
4. ステップ別:J-STAGEを使った学術大会資料管理・活用アイディア
ここからは、実際に学術大会にJ-STAGEを活用する方法やアイディアを、3つのステップに分けて紹介します。

4-1. 【Step1:事前】学術大会に合わせた資料の事前登録と公開
学術大会の抄録集や予稿集のデータをJ-STAGEに事前登録しておくと、大会前に発表内容を整理しやすく、より計画的な準備が容易になります。
資料はPDF形式での一括登録のほか、特定のセッションやカテゴリごとに分割しての掲載も可能です。情報公開する範囲やタイミングは、発表者・会員(当日の参加者)・一般ユーザーなどに区切って段階的に設定し、学術大会の影響力を最大限に引き出すスケジュール案を作成しましょう。
4-2. 【Step2:当日】現地での運営や参加者との情報共有を円滑にする方法
J-STAGEで学術大会の公式サイトやプログラムと連携し、参加者がオンラインで必要な資料を簡単に閲覧できるようにするのもおすすめです。発表内容への理解が深まり、会場での議論が活発になるでしょう。
また、記事に誤りや変更が発生した場合、紙の資料のみだと、迅速な修正・周知の対応ができません。その点でもJ-STAGEであれば、比較的時間をかけず柔軟に運用できます。
4-3. 【Step3:事後】アーカイブ資料とアクセスデータ活用のアイディア
J-STAGEを活用せずに、オンラインで学術大会資料を長期間保管し、大会終了後に継続的に閲覧することは、実は簡単ではありません。J-STAGE上に資料があれば、研究者は自身の発表を振り返るだけでなく、他の研究者の過去の発表を検索・比較できます。
さらに運営者にとっては、J-STAGEでの閲覧データ分析から、どの発表に関心が集まっているかを把握できます。このデータは今後の学術大会や学会の運営にも非常に有益です。たとえば「特定のトピックにアクセス数が多いと分かれば、そのトピックに関するシンポジウムを新たに企画する」などの展開が考えられます。
データの有効活用により、学術大会の質を向上させ、より実りのある研究交流の場を提供できるようになるでしょう。
参考記事:【学術大会の資料】J-STAGEへの掲載準備・手順・スケジュール例
まとめ:論文だけでなく抄録などの大会資料もJ-SATGEで
大会資料の編集や公開にも、J-STAGEがおすすめです。学術大会の資料を効率的に管理・共有でき、検索性やアクセス性が向上するでしょう。さらに運用体制の最適化や情報公開のタイミング調整、アーカイブやデータの活用もポイントです。学会運営の負担を軽減しながら、研究成果の発信力の強化も両立を目指してみてはいかがでしょうか。
日本印刷出版では、J-STAGE掲載に関するご相談をお受けしております。
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