「公開済みの論文を修正したい。エラータってどうやって作成すればいい?」
「論文に誤りを発見した! エラータを出すべきかどうかの判断基準は何?」
この記事では、J-STAGEでのエラータ作成方法を解説します。 公開済み論文を訂正するための作業フローや具体的な手順を紹介。エラータの役割や訂正の判断基準、修正や撤回に関するよくある疑問の解決法まで、実務に即した情報をまとめました。これを読めば、もし掲載論文の訂正が必要になったときにも、迷わず対処できるようになるでしょう。
※本文中の説明はすべて2024年12月現在の情報に基づきます。
1.J-STAGEにおけるエラータ記事とは?その役割と重要性
まずはエラータとは何なのか、J-STAGEにおけるその役割など、基本的な事項から再確認しておきましょう。
1-1. エラータの定義と基本的な役割
「エラータ」とは、すでに公開された学術論文や記事に含まれる誤りを訂正する補足的な文書のことです。またJ-STAGEが推奨する方法で修正箇所を明示する記事を「エラータ記事」とも呼びます。
J-STAGEで公開済みの論文を修正したい場合、エラータ記事を作成して元記事とリンク設定すれば、読者が論文内の誤りをすぐに認識できるようになる仕組みです。
修正対象は単純な誤字脱字からデータの数値ミス、さらに研究の内容に関わる重大な問題まで、多岐にわたります。軽微な問題以外は、エラータ記事による訂正対応が欠かせません。
1-2. なぜエラータ記事が重要なのか?
学術研究における誤りの多くは、研究者や編集者の意図せぬところで発生します。例えば細心の注意を払っていても、データ入力ミスやソフトウェア設定のエラーなどは起こり得ます。
発見された誤りを放置すれば、他の研究にも悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。エラータ記事を迅速に発行し、研究成果の信頼性を保つことが大切です。
1-2. 元記事を直接修正するのは非推奨
J-STAGEでは、公開済み記事の修正にあたり、エラータ記事の作成を推奨しています。元の記事をそのまま残し、エラータと相互にリンクすることで、修正の経緯を明確に示すことができるためです。
履歴情報だけを残して、元の記事を書き換える方法も可能です。しかし公式には推奨されていません。特に修正履歴を残さない「ステルス修正」は要注意です。研究の透明性を損ない、論文やジャーナルばかりかプラットフォームの価値も低下させてしまう恐れがあります。
2.J-STAGEでのエラータ作成・公開の具体的な手順
続いて、エラータの作成と学会誌・ジャーナル発行機関向けの管理画面の操作手順を説明しましょう。
2-1. エラータ記事関連の作業全体フロー
「J-STAGE 編集登載システム」でエラータ記事を公開する方法は、厳密には、論文の公開形式(XML形式またはWeb形式)によって異なります。ここでは、現在主流である、XML形式の場合をピックアップしました。
全体の作業フローをざっと紹介すると、以下の通りとなります。
①冊子体でエラータ記事を発行する(冊子体がある場合のみ)
②公開済み記事はそのままで、新たにエラータ記事を作成する
③エラータ記事をアップロードする
④元の記事とエラータ記事をリンク設定する
2-2. エラータ記事作成のポイント
エラータ記事では、誤りの箇所(べージ、章、節、段落など)や修正内容を具体的に記載し、読者に誤解を与えない表現を心がけてください。表やリストの形式で正誤のポイントを対比させると、その違いが一目瞭然です。
さらに、タイトルには「エラータ」や「訂正に関するお知らせ」といった分かりやすい表現を使用し、文書中に読者や著者に対するおわびのコメントを入れるとなお良いでしょう。
2-3. エラータ記事作成・アップロードの手順
2-1の②以降、各フローのさらに詳しい手順は、下記のようになります。
- エラータ記事作成:編集登載システムでエラータ記事を作成
- 公開日設定:記事の公開日を設定
- 記事リンク設定:元記事とのリンクを設定
- エラータ記事公開:読者が閲覧可能
- リンク確認:元記事と正しく関連づけられているかチェック
なお編集登載システムを通さずに、PCなどで別途エラータ文書ファイルを準備し、「記事アップロード」機能で追加する方法もあります。
より詳細な操作方法などについては、J-STAGEの公式資料をチェックしてください。
外部リンク:公開後の記事訂正について(動画)
J-STAGE 操作マニュアル 記事訂正(公開記事訂正、エラータ記事作成)方法<第2.1版>
3.論文の訂正・撤回・修正に関するJ-STAGEの推奨基準
論文の訂正や撤回をすべきかどうか判断する際には、J-STAGEで定めている基準を参考にしてください。「J-STAGE 編集基準」の中で、それぞれ以下のように示されています。
3-1. 訂正の基準
J-STAGEでは、誤りの重要度に応じて異なる訂正方法を設けています。
軽微な誤り(自明のスペルミス、句読点など)は書誌情報ページでの修正にとどめ、重大な誤りには記事訂正かエラータを使用するようにしてください。特に深刻な編集ミスの場合は、新しいページ番号で「訂正再発行」を行います。
なお以下のような事項は「軽微な誤り」には相当しない(=エラータ記事が必要)としています。
- 著者名
- 電子メールアドレス
- 記事タイトル
3-2. 撤回について
論文の撤回は極力避けるべきです。しかしながら法律違反や名誉棄損などの法的限界、重大なデータ不正、倫理的問題などが公開後に発覚した場合は撤回も必要となるでしょう。
撤回時は理由を明記した記事を発行し、元記事とリンクします。原則として撤回記事も削除せず、科学的記録として保持するよう定められています。
3-3. その他の修正・削除
論文の電子付録(音声・動画など)やデータリポジトリの差し替えは原則禁止されていますが、重大な誤りの場合は例外的に認められることがあります。
また訂正や撤回が行われても、情報の信頼性や追跡性を損なわないために、DOI(デジタルオブジェクト識別子)は変更せず、元のDOIを維持します。
さらにJ-STAGE側で物理的に削除する際の基準は、「裁判所の命令」と「発行機関の出版倫理への判断」、この2つのみに限定されています。それ以外の記事の掲載・削除の判断は、基本的に発行機関側にゆだねられてることが、編集基準にも明記されています。
外部リンク:J-STAGE 編集基準(J-STAGE)
4.修正に関するよくある疑問
最後にJ-STAGE公式の「よくある質問」から、発行機関がエラータや記事修正についての疑問や想定されるケースを、3つピックアップして紹介します。
4-1.誤って公開してしまった記事を、削除もしくは非表示にしたい
J-STAGEで一度公開された記事は、国内外のサービスに広く配信されるため、削除や非表示は原則としてできません。内容に誤りがある場合は、エラータや訂正記事を公開して対応します。
もしも著者の立場で論文に関する誤りを見つけた場合は、速やかに発行機関へ確認・相談してください。
4-2. 冊子体を発行している場合の訂正方法とタイミング
冊子体にも同じ誤りがある場合は、J-STAGEでエラータ記事を公開し、元記事とリンクさせましょう。
冊子体のみ正しい場合、すでに論文公開後であれば、編集登載システムの訂正機能で慎重に事前確認し、修正作業を行ってください。公開前であれば記事編集機能から更新できます。
4-3. 記事の撤回方法を知りたい
論文の撤回には、撤回告知記事の作成が必要となります。
告知記事には理由を明記し、元記事との相互リンクを設定。元記事のPDFの冒頭に撤回説明を入れ、関連文献にも撤回告知を登録します。撤回の手順の詳細は、訂正の場合と同じ公式資料に記載されています。
外部リンク:よくあるご質問(J-STAGE)
まとめ:掲載後の修正はエラータ記事で正確性・信頼性を担保
J-STAGE掲載後に論文を修正する必要が分かったら、迅速かつ正確にエラータ記事を発行して対応してください。元記事とのリンクを明確にし、訂正内容を分かりやすく読者に周知して、学会誌・ジャーナルや研究者の透明性と信頼性を守りましょう。
日本印刷出版では、J-STAGE掲載に関するご相談をお受けしております。
・J-STAGEを活用したいけど、何から始めればいいかわからない
・自分達にあったJ-STAGEの活用方法を知りたい
どんなお悩みでも、お気軽にご相談ください。